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2025.5.1
【開催レポート】知的財産法講演会 / CPS研究会公開セミナー:AI時代のデータ利活用と法規制「データ資産、データ保護規制と企業の競争優位性」

2025年4月17日、戦略・ビジネス経営学におけるスペシャリストのコーネル大学 アイジャ・ライポーネン教授をお迎えし、企業におけるデータ保護規制への対応が財務的パフォーマンスに及ぼす影響について、特に強制的規制と業界の自主的な動きの双方から生じる圧力に着目してご講演頂きました。留学生も多数出席し、オンラインと合わせておよそ50名が集まり、閉会後も教授を囲んで多くの学生が熱心に質問をするなど盛会となりました。

講師:Prof. Aija Leiponen
コーネル大学SCジョンソン経営大学院
チャールズH.ダイソン応用経済・経営学部
教授(戦略・ビジネス経営学)
専門職修士課程プログラムディレクター
プログラム上席ディレクター
https://business.cornell.edu/faculty-research/faculty/ael24/

司会:君嶋祐子
慶應義塾大学 法学部・大学院法学研究科 教授(知的財産法)
サイバーフィジカル・サステナビリティ・センター 代表

(プログラム)
・16:40 開会/開会のご挨拶
・16:45『データ資産、データ保護規制と企業の競争優位性』
・17:40 質疑応答
・18:15 閉会

講演

各企業がデータ資産に依存するようになって来ている中、データ保護規制の対応で企業の財務パフォーマンスや他社の競争優位性にどのような影響があるかについての検証結果を説明頂きました。規制による外的な環境とデータ漏洩を防ぐ自主的な圧力の2つの観点からどのようなことが起こり得るかについて様々な事例を交えて、考える場となりました。

まず、データの価値について、NBAヒューストンロケッツのデータを活用した3ポイントシュート戦略が大きく進化した事例と港に出入りする貨物船がセンサーデータを共有・活用して効率的に運航するスマート港湾エコシステムの事例をもとに、データが産業構造を変える「ゲームチェンジャー」となることを説明頂きました。

次にデータの意味づけについて、データが何に依存するか、複数の補完するデータによりデータの価値が出るということ、 そしてそのデータ保護について2015年のマッチングサイトのサイバー犯罪による会員データ漏洩事件の事例が何を示唆しているか、 EUのデータ保護規制の考え方の基本となる、GDPR(Genearal Data Protection Reguration) は世界で最も厳しいデータ保護規制として知られており、各国のデータ保護規制や研究に影響を与えていることや米国の企業の強化のシグナルについて説明がありました。

データ保護のためには、短期的な回収は期待できないコスト(インフラ、データ分析、顧客指向分析)が多くかかり、企業は長期的な競合差別化、消費単価を上げる効果を期待するものの、消費者は高いデータ保護を価値と考えにくいため、コストを回収しにくいという問題があります。そのため、過度なデータ保護規制は特に中小企業の競争力を下げる危険があると指摘されました。このことから、政策設計と企業戦略の両面において、「信頼されるデータの活用」が今後の競争力となるとまとめられました。

参加者は、とても国際色豊かでした。質疑応答では積極的に質問が投げかけられ、LLM(大規模言語モデル)のデータの扱いやデータポータビリティの位置づけなど、データの利活用とパーソナルデータの保護やデータの知的財産的保護とのバランスについて、さらに探究が深まる時間となりました。

本イベントは、CPS研究会の一環としてJSTムーンショット型研究開発事業JPMJMS2215の支援を受けています。
主催:慶應義塾大学 CPSセンター
後援:法学部 大学院法学研究科